アジアに生きて

 

佐々木 ところで金さんって舞台で拝見するよりずっとお若い、どこかで見ていたお顔でした。


 三浦綾子さんの『銃口』で朝鮮人役を僕やってるんです。


佐々木 ええっ!


 NHKで。炭鉱で逃げて、ある日本人に匿ってもらってパルチザンになるんですね。それで満州で世話になった日本人が捕虜になって銃殺されるのを助けるんです。愛さんがお父様のことを書かれたエッセイを読みながら思い出しました。高橋一郎さんの四時間ドラマだったかな。たぶんこういうことが忘れてはいけない物語としてあって、佐々木さんがおっしゃっている満州とか、日本国だけじゃない、大きな歴史の中で翻弄された人のエネルギーというものがなんか共通するのかなと。


佐々木 私の両親なんかも満州で敗戦を体験したことによって、切り捨てられた日本人たち、残留婦人や孤児、そういう人たちを見てしまったわけですよね。奥地から引き上げて来て、食べるものがなくて野垂れ死にしてしまう日本人の墓掘りのアルバイトをしたりしたので。その時に中国の人にもすごくお世話になったし、演出部の人が韓国との二世だったので、たぶんそういうことで文化座って生き延びられたんじゃないのかなあって思うんです。東北部には朝鮮族の人も多いですしね。おかげさまで全員帰って来られたんです。だから、いろいろなことが気になっていて……。
あと、ワンコリアっていう言葉はありますけど、やっぱりアジア、一つのアジア。日本も沖縄とかアイヌ、いろいろなことを抱えていて、何にもできないままここまで来ちゃったので、共通する歴史を持つアジアのことをもっと知りたいと思うんですよね。


 やっぱり東アジア、日中韓は本当に兄弟のような関係で来たし、それぞれ歴史を紡いできた。それが変にバランスを崩して、修復できないまま来ちゃってると思うんですよ。領土問題、過去の歴史認識を含めてですね。ただ僕が絶望しないのは、人と人の交流は止められないし、それこそ竹島の時にあっちにいらして演劇は全然問題ないじゃないですか。


佐々木 そうなんですよ。

 演劇を観るお客さんを信じていけばいい。僕自身もやりながら学んでいくことって多いんですね。だから演劇を通して一つ一つ勉強しているし、少しでもそれを共有できる仲間を増やせれば、また大きな力になっていくんじゃないかなと思っています。

 

知ることが大事

 

佐々木 来年(2013年)の秋に金城一紀さんの『GO』をやろうと思っているんです。若者の愛の形が切り口だと文化座でもできるかなあって。うちは先輩たちが戦争の渦中を体験してしまいましたから、そういう家の歴史を、事あるごとに若い人たちに伝えようとしているんですが、これを機会に在日の人たちのことが少しでも身近に考えられるようになるといいなあと思います。


 いいですね。あれはあれでまた新しい在日の考え方で、力だし。すごく多様なものがあるから勉強になりますね。やっぱり三十八度線というのを気にしてますからね、それは嬉しいですよ、どんな形であれ。


佐々木 私たちも、近くにいて全然知らなかったこともいっぱいあったし。


 ロミオとジュリエットが多いんですよ。やっぱり結婚問題になると結局バレるわけですよ、それまではなんとか隠してても。地域に根を張った差別感、部落であったり、アイヌもそうですし……。


佐々木 そうそう。そういうのがあるんですよ、やっぱり島国の。


 穢多・非人と呼ばれる人たちの部落に朝鮮人たちが住んじゃったわけですよね。なぜかというとどこにも行けないから。朝鮮半島でも特に済州島の人たちが四・三事件の時にごっそり来てるんですね。またそういう部落の人たちがあたたかく迎えてくれるわけですよ、沖縄の人とか、同じ思いだったから。そこでたぶん一緒にされている。じゃあ僕らの朝鮮人問題を解決するためには、沖縄問題、部落問題、アイヌ問題、こういう根っこにあるもの全部解決していかなくちゃいけないんだなと。気が遠くなる話だけど誰かが何かしないといけないなと思いますよね。


佐々木 そうですねえ。

 僕は梁石日さんの小説「アパッチ部落」を原作に『夜を賭けて』という映画を撮ってるんです。映画の第二部は大村収容所が舞台なんですが、大村が結局我々在日を分けてしまった。北朝鮮に出る帰国船というのもここから始まってるんですね。つまり在日は90%アカだと。吉田茂首相とマッカーサーによる国策で、朝鮮人が日本にいると民族主義とかで暴動が起きて危ないからみんな帰しちゃえと。でも戒厳令の軍事独裁の韓国には誰も帰らない。そこで北には地上の楽園があると。北って実は日本より爆弾が落ちてるんですね、集中的に。そんな所が地上の楽園のわけないじゃないですか。そう言って騙して送ったわけです。とにかく日本から朝鮮人をなくさせる。もしくは帰化しろと。これが僕らの歴史なんです。一九四五年に解放されて三十六年間の屈辱からやっと自分を取り戻したのに、また天皇陛下を奉って「君が代」を覚えろと言うんですよ。模範的な日本国民として再生しろと。じゃあ自分は今まで悪いことをしてきたのかっていう話ですよね。それが日本の帰化条項にあるんですね。
とにかく僕らの存在を無くそうとしたんですよ。だから僕が帰化しないのはそういうところであって。帰化してもいいんですけどね。僕の妻は日本人ですから、僕の子どもたちは今二つの国籍があって、二十歳の時に選べる。まあそういう時代になったのかなと。まさにあの『GO』はそういう狭間のドラマでね。


佐々木
 そうですね。だからわかりやすいというか。


 面白いと思いますよ。次の世代の人たちが自問自答するための。


佐々木 いつも考えていながら、どうしても『春香伝』の後が出なかったのですが、まあ『GO』からやってみようかなと思っているんですけど。


 いいですね、楽しみですね。


佐々木 ぜひ観て、なにかボロクソに言ってください(笑)


 いえいえ(笑)。とにかく在日をテーマにしたものをつくって認められたいですよね、在日文化として。僕ら日本でいいんですよ。日本がベースになりながら、北も韓国も中国も含めて、そういう歴史認識を持ちながら。どこから来てどこへ行くのかというのが僕らのテーマじゃないですか、自分が何者かというね。


佐々木 どこかでおっしゃってたんですけど、カナダでもどこでも中国系とかフランス系の何々人とかっていう。本当に外国へ行けばみんなそうなんだから。韓国系の日本人というね。


 そうなんですよ。だから日本の帰化も、系をつくってくれればいいんですよ。ルーツがなくなっちゃうんですね、この国の帰化は。


佐々木 「忘れてはいけない」と何度もおっしゃっていましたけど、知りもしないでスルーしちゃうことが今多いと思うんですよね。だからいろいろな歴史があったということを知って、記憶すべきことは記憶した先に何か花を咲かせたいなという。


 楽しみですね。


佐々木 もし一日でも許せたらお稽古見ていただいてサジェスチョンしていただけたらと思いますけど。


 僕の高校はサッカー強かったから授業よりサッカーばかりやってましたけど、人間同士の絆とか、友だちを思う気持ちとか、それは先生から本当に教わりましたね。まあ人間としての情というんですか、韓国人はまたそれが熱いんでしょうけど。


佐々木
 それをすごく感じるんですよ、『GO』を読んでも。それが今すごく日本の若い子たちの中に薄れてるなという気がするんです。もう喧嘩もしなくなっちゃったっていうか。


 傷つくのが怖いんですね。だから自分の主張をしないんですよね。何とかぶつからないで回避しようとする。


佐々木 あれはぶつかることの美しさみたいなものが出てくるから。


 僕も喧嘩した奴のことは今でも覚えてますからね。それがみんな北朝鮮に行っちゃった。で、親の遺骨を取りにだけ来れるんです。だから僕も日本でしっかり表現して、なんか友に届けたいなと思ってるんです。

(4ページ目に続く)